「おぼっこ」五周年記念特集号(昭和41年10月20日発行)復刻版

    
『座談会』五周年にあたって

――グループと運動あれこれ――

プロローグ

 日本にユースホステル運動が紹介されて、十五年、当グループが出来て五年目にあたる。ここら辺で一度、五才になるグループのことを、あるいは日毎考えていることを、皆で話し合ってはと云うことで一日編集部の要請で集まっていただいた。時間や、話の疏通が巧くゆかず、例によって尻切れとんぼとはなったが、考えて良いヒントが多く出ていると思う。それを基にして以後の発展に資していただければ幸いである。  
                           ─編集部─

司会: 山村
参加者: 富田、藤村、小田島、田村(以上四年)伊藤、田中、八重樫、佐々木、浪岡(三年)小笠原(守)、小林、加藤、福田、高橋(二年)


◆グループの長所

司会   うるさ方の皆さんの顔がそろったようですので始めたいと思います。初めからどうも照れますが、このグループを自画自讃して列挙していただきたいと思います。 小田島さんいか.かですか。
小田島 他のグループと比べてグループを離れた時でも人間的なつながりが深いんじゃないですか。
八重樫 そうですね。要するに小田島さんの言ったことが大きな面での良い所だと思うわ。
福田  なごやかムードですね。すべてにわたってそれがあるんじゃないでしょうか。
司会  お隣りの小林君は……。
小林  それ程別に良い所も言いたくないし……。(笑い)
田村  学生としての縦の基盤とホステラーとしての横のつながりと言う二つの上に成り立っている所がいいんじゃないかと思います。
八重樫 先輩の築いてくれた組織ではあります.が、それは大変立派だと思います。(まあ比較的にね、ガヤガヤガヤガヤ)
小笠原 グループにおいて個々人の差がなく、後継者の養成がうまく行っているので役員も初めの不安に比べて、皆んなによく受け入れられていると思うんだ。
藤村  社会的適応性が身に付くんじゃないか。
富田  人間の根本に人恋しさというものがあってユースの人達はそれに気付きかけたんじゃないか。だから今言われたこともその現われではないか。
司会  富田さんは三年間このグループにいられますが、何か昔と今の違いなどがありましたら……。
富田  昔は人間と人間との付合いが表面的であったと思う。人数が多くなったっちゅうこともあるだろうけれど付合いの関係が大きくなったんじゃないか。
藤村  三年前に比べるとクラブが人間と人間との関係に重きを置く様になったよ。
田村  そうね。昔は組織作りに一生懸命だったからね。
富田  昔は人間関係について不満が多かったけれど今はそれを聞かないしね。(しばらく皆良い点を考え出そうと黙す。)
司会  佐々木君は二年目だけど如何でしょう。
佐々木 どこがいいか分らないけれど良いっていうことが分るね。
(外部から見ないと分らないもんね。ガヤガヤ)
小林  度重なる自己紹介で人の前で臆せなくなったことは実に良い面ですね。(イヤミだね。ケケケ…。)
田村  話し合う機会が多く他のクラブより与えられていると思うわ。
小田島 このクラブでは何をするという明確なものがあるわけではないから、なるべくしてそうなったとも言える。
藤村  人間性の追求というかね。イイスネ。これが大事なんですよ。

◆グループの欠点その他

司会 まだまだ良い処もありましょうが、(笑い)ここらあたりで悪い処をなるべく多く出していただきましょうか。今後の為にも…。
富田 運営していることがグループ員に伝わらないんじゃないかな、特に一、二年生の一部では何をやっているのかわからないんじゃないか。
藤村 学年ごとに経験と考え方の差があるので一つのことに集中するときに同じ考えでグループ全員にピンと来ないんじゃないか。だから一つのことに全部がまとまって行動するのが難かしいんですよ。
司会 佐藤さんは如何でしょう。(これはどなた?)
佐藤
 手腕家が揃っているので私の出る幕じゃありません。(一礼する。笑い。)
司会 運営面を別にしては如何でしょう。
伊藤 あらゆる面に人まかせという所があるから自分をもっとこう……正してもらいたい。目的.がないから人まかせになるのかもしれない。和やかさが一面悪い面にもなるんじゃないか。自分の道をクラブの中で見い出そうとしないんだ。上から厳しくしてもらいたいらしいけれども、それじゃ本当の厳しさじゃないんだよ。与えられる厳しさって言うのは。
福田 厳しさがないって言うけれどそれは自分で求めるものじゃないか。
小林 人間の型として自己逃避というのがありますが、このクラブでは悠々自適に暮らそうとする人が多くて社会的積極型が少くないようですね。さらにユースホステル運動は確かにいいものだと思っているけどね。それに絶対的に従っているみたいで、グループとして批判的なものがないような感じですね。何か中世のキリスト教のような感じだ。
小田島 中世のキリスト教において批判されたものの根本的原因は何かと言うと、いわゆる堕落なんだ。(笑い)様するにそれが我々ユースホステルにおいては何にあたるかと言うことが問題なんだ。比較してみるとすれば、教えそのものには間違いないと思うんだけれども……。方法には問題があるんじゃないでしょうか。
伊藤 我々グループは他の大学のグループと比べて批判的だと思う。
小田島 しかしそれが明確に表われていないんじゃないか。
  社会的適応性が身に付くんじゃないか。
富田 そうだ、家の中では相当批判的だけれど外に表われていないのじゃないか。
伊藤 しかし我々のグループは全国の集りに行って見ると相当異色だよ。
佐藤 みちのくに孤立しているからね。(笑い)
伊藤 たくましく出来ているということだね。
富田 しかし無意識であるからそれは批判ということにはならないと思うよ
伊藤 我々は少くなくとも観光ルートに乗った旅行はやっていないし、現在のYHは余りにも旅行愛好会になりすぎるんだ。それに対する……。
小林 しかし我々のGは観光旅行とどこが違うんだ。別段それ程変りないと思うんだがね。
伊藤 うん。確かにその面はある。しかし他のいろいろなこともやっていて、唯の愛好会にはならないと思う。なってないよな。
司会 ここら辺で加藤君どう。
加藤 今クラブを止めたいと悩んでいる人がいる様ですが、ということはその点にも何かクラブの欠陥があるんじゃないんですか。
司会 止めていく人の理由を考えてみればグループの欠陥が出るかもしれませんから、その点を究明してゆきましょう。
福田 グループの雰囲気に馴染めないとか。
小林 入っていけないとかがある。
伊藤 このGには排他的な面があるんだ。内に固って外に出てゆこうとしないんだ。システムそのものは排他的じゃないが新入生が入ってしまえばいいけれども、入る時、入り.づらいと言うことは考えなければならない。
富田 それは排他的と言うのじゃないんじゃないか。おれが二年生の和やかにやっているところには入りづらいけれど、別段隔りがあるわけじゃない。だからそれ程どうのこうのという程のものじゃないんじゃないか。たまには外の方にも眼を向けれぱいいんじゃないか。
伊藤 さあ、それはどうかな。
小田島 植物園で集まっている時でも一年生.が入りにくい顔をしていたが、こちらから入れてやろうとする努力がなかったんじゃないか。
伊藤 だから努力しなくてもそうなるべきなんだ。
小田島 しかし入ろうと積極的になれば入れるし、努力しなければ入れないのは当然じゃないか。
伊藤 新入生が努力しなくても入れるべきじやないか。
浪岡 しかしそれはグループがまとまっているという長所じゃないか。
伊藤 だがそれは片手落ちであって、まとまるにも外を見ながらまとまらなければならない。このG員気質としてクラスその他にも馴染んでいない人がいると思うが。
浪岡 しかしそれは個人の問題であってG干渉する必要がない。
伊藤 介入する必要はないが、そういう雰囲気があるという悪い点がある。
浪岡 しかしそれはそれ程このGに魅力があるという証拠ではないか。(笑い)
藤村 結局まとまればまとまる程外に対して開放的になる努力が必要であると言うことであって、少々その努力に欠けているという点があると思う。
小田嶋 これもGの独自性であって何かGに練習に来たというのなら、一人でやっていけるが、YHの場合には何もすることがない。これは良い所でもあり、悪い所でもある。
司会 浪岡君何か。
浪岡 いや、細かいことだけど、我々行事の時はYH精神がどうのこうのと言っているけれど、それが日常生活にいかされていると思う。たとえば、スリッパをそろえるということ一つにしてもね。それならば何もそんなことをする必要はないんだ。(そうだ、それは何も細かいことじゃない。ガヤガヤガヤガヤ)
田村 そうよ。我々はもう年をとり過きているから最っとちっこい時からやるべきだったと思うね。
浪岡 しかし、それを強制するのが我々Gじゃないですか。
富田 それはなんちゅんだろうね。おれは昔からだらしがないからね。スリッパをそろえるとかは皆んなと行かない時はちょっとおろそかになる。だけどね、Gで行って、そういうことは彼に常にスリッパをそろえることを教えるんじゃなくて、そろえることによって何かを教える。だから普段の時は少しぐらい乱れても、時たま行った時に皆んなを厳しくする。それによって何かを得るという時もあるんじゃないかと思う。(少し自分で照れ笑いしながら……。)(一同爆笑)
小林 そうだ、そういうYH精神を自分たちの精神でもあるようにうぬぼれているんじやないか。
高橋 だけど日頃の生活においてもそのような態度を取って深い人間関係が求められるかね。
田村 わざとやるからそういう風になるんじやないの。
浪岡 いや、しかしさ、そういう風に儀礼的にやれっていうんじゃないんだよ。カッコいいこと言うわりにはあまりにもかけ離れていすぎるんじゃないかな。たとえば、汽車に乗って一般の迷惑を考えずに歌を歌ったり、ホステリング中は酒は駄目だと言うのに帰ってすぐ飲んだり…。それがどれ程大衆の迷惑になっているか全然考えないわけだ。大衆心理でワァッと動いていると同じなんだ。人数.が多いから仕方がないかもしれないけどね。
小林 身についていないと言うけど、たばこを捨てるときは抵抗を感んじるのは進歩じゃないですか。それから気になるんですけど、我々G内において、言葉で紙を捨てるなと注意しないで、自覚を待つというのはどうかと思います。
田村 それはしかし言葉で言うより効果があるんじやないの。
伊藤 そうだと思う。もっと皆んなも広くそういう事を身を持ってG内ばかりでなく他の人にも気付かせた方がいいと思う。
司会 結局、改善策はなくて唯自覚に待つということですか。(まずまずそういうことだろう。)

◆グループの人間関係について

司会 排他的であるとか、何んとか人間関係についての論議がありますが、それについて論じていただきます。佐藤さんここら辺で如何でしょうか。
佐藤 人間関係をなぜ強調するかと云うと、確たる判断の基準を持たないグループであるために、精神と云うボヤーッとしたお互に納得のいくもの……。しかしその実、全然理解していないものを求めようとする。だから他からみると一見すると何をやっているのか判らないようなグループである。何をやっているかと問われると答えることは答えるが、何かその問いに対する答とは違うということを自分自身感ずる。排他的とか何んとか云うけれども僕に云はせれぱ思想がないから、どのような思想をもってた人でも入って来れる。だから人間にフィルターをかけずにみることができる。要するに紳士的なつきあいで一線を越えないんだ。だから学年でまとまる傾向が、人数が多いという理由ばかりでなく生じると思う。
伊藤 おれもそう感ずる。行動においても思想においても共通なものがない。それが何か一つもの足りない感を抱かせるのではないか。
小林 ぼくもそんな気がしないでもない。
佐藤 僕は必ずしもそれが悪いとは言わない。一線を越えることが残酷かつ失礼なことであり、グループの解体の一部の原因となるかもしれない。しかしいつまでもそのわけのわからないものを追求していくとグールプたる何物も出てこない。ずいぶん昔は仕事仕事といったものだ。いやしくも大学のGなら大学のグループらしく何かをするべきだという気もした。今年の役員はその点考えて新しいことをとり入れてやっているようだが、結果はともかく結構だと思う。一方そうなるべくしてなったという感もするけれどもね。
八重樫 佐藤さんの言われることはピンとくるわ。実際このGは何をすれば良いのか迷うもんね。このGの良い点は人間関係が良いという。しかしそれをのばすべきかというとまた迷う。さらに別の目的をもって進むべきかというとまた迷うし……。
伊藤 あのね。精神的な面、いいいいと言っておしつけるけど、そうあってはならないんだ。スポーツをやって自然に出来上っていくと云うのが、俺はスムーズな精神的結びつきだと思うよ。
浪岡 その為にホステリングをやっているじゃないか。
伊藤 そのホステリングなどを改良する必要かあるんじゃないかと云うことだ。
高橋 小人数で行けばけっこうそれが達成出来ると思うが。
浪岡 その為に分散をもうけている。
田中 人数の多い為の悪い点ばかりを考えないで、多い為の良い面をみてもいいのではないですか。
田中 良い悪いは程度の差によるんじやないですか、関係ないかも知れないけどさ、……笑い。
富田 昔は、人間関係について不満が出て来たが、今はそれがないと云うことは一応解決されたと見ていいんじゃないかな、黙っている間に個々人がつくるのが理想的ではないのか。
佐藤 人間関係を云々しながら人間関係をつくる程ナンセンスな人間関係はないね。
伊藤 それに、我々のクラブは決して他人を攻撃しないんだ。
佐藤 そりゃそうだよ、代償が返ってくるんじやないの。
伊藤 うん、悪い処でも全然攻撃しないネ。
高橋 それがホステル精神じゃないですか。……(笑い。)

◆グループとクラスの人間関係

伊藤 一体、グループで育てられる人間関係と、クラスで得られる人間関係とは別なものだろうか。
佐藤 比較的、問題としては異るだろう。第一、色々の学年、学部の人々がいると云うことが異っている。
浪岡 一つの仕事をするのに都合がよく思想、考えはどうあれ集っているのが科で、クラブと云うのは一つのあるものが好きだ、あるものがしたいと云う人が集っていると思うんだ。
伊藤 クラスでも同じだろう。
佐藤 ちがうんだよ、科と云うものは絶対命題で抜けることが出来ないが、クラブと云うところは自由なんだ。しかしとどまるとね。べ-スが異るんだ。
小田島 俺はそうだとは思わないな。そんなことは大命題であるが故に、それ程関係ないと見ていいんだ。機械科なら機械に関して結びついているのではないんだ。
八重樫 わたし本質的にはどっちも同じだと思うわ。
佐藤 それでお互が結んでいる手段が違うんだ。
伊藤 媒体が……。
田中 俺ちがうと思うな。
小田嶋 科に於いては自由な方法で友達を選ぶことが出来るのだ。つまり科に於いては、つきあいたくない人とはつき合わないことが出来る。つき合いの範囲を限定選択すること.か出来る。クラブではそれが出来ないと思うんだ。
伊藤 でもクラブにおいてもそれは可能だと思うんですが。
小田島 ある程度はね。科に於ける程、明確には出来ないと思うよ。
伊藤 逆に、クラブではあまりにそれを怖ろしがっていると思うが。だからあまり深入りもしないことになるし、それが欠点にもなる。
小田島 それはクラブに集ったからには避けなければならないことだと思うよ。
伊藤 僕は避けなくてもいいと思う。
田中 個人的なものがあると思うのよ。いや、言葉で表すことは出来ないよ、だけどさ。(笑い)
田村 ちがうわ。どう違うかって云うと、なんて云うかな、クラスでは仕事をすることは義務感によってなされるけどクラブでは…。
小林 人間関係としては同じだと思うけど。
加藤 要するに段階がちうんだ。まず最初は表面的なつき合いから始まるんだ。深まっていけば同じだよ。
伊藤 クラブは利益なしで集まるし……。
浪岡 そうじゃないよ、利益だって金銭的なものばかりじゃないし。(ガヤガヤ)
田村 なんだか変よ。(記載不能の混乱数分)
司会 色々御意見もおありかと存じますが一応グルーブとの差異はこの位にして居きたいと存じます。

◆グループと政治関心

司会 先程浪岡君からありました政治的関心についてお話合い願いたいと存じますが。
伊藤 ユースホステル運動そのものは政治色を帯びてはならないちゅうことになってるんだ、一応。
浪岡 だがね。一般的にはそうかも知れないが、我々は学生だろう?。そう云う面からあまりにも逃避してクラブに入って来てるんじやないか。
伊藤 クラブ自体そう云う色を帯びてはならないよ。当然各自がもつべきだけど。それがプァーとクラブに入ると消えてしまうんだ。
浪岡 ないでしょうそれが。
田村 あるでしょ。ねえねえねえ。
浪岡 しかし集会ではそう云う話はないですよ。
伊藤 だからあまり興味をもたさないクラプであると云えるんじゃないかな。
八重樫 もたせないと云うのはおかしんじゃない。
佐藤 いや欠点じゃないよ。そんなのが出たらクラブの動きがとれなくなるだろう。
浪岡 いや、たまにはそんな話も出てもいいんじゃないかと思うんですよ。
伊藤 あまりにも少い。全然ないと云ってもいいよ。しかしだからと云って集会で話すと云うのは間違いだと思うよ。気の合ったのが二、三人で話し合えべば良いのだがそれがないのが問題だよ。
田村 話し合う種が少いのね。学芸なんかにいくと、どんどん種があるでしょう。ユースにいくとそれがない。
佐藤 しかしね、お茶を濁した位で話をすると云うのはどうしようもないことなんだ。
田村 切羽つまれば真剣になるのね。
藤村 我々のクラブでは政治運動をしている奴がいないでしょう。
高橋 二、三人はいますよ。
小林 「あなたは政治を忘れても、政治はあなたを忘れない」って云う言葉があるけど(ワァかっこいいって云うんでしょう。)クラブがかたまるとすればより一増そう云う話をしないと片手落の人間になるんじゃないか。
高橋 この間、一年生の座談会でユースは政治色がないのが良いと云う人がいたが、元来入ってくる人がそう云うことに対して無関心なのではないですか。
伊藤 山へ行って話をして政治的関心が高まると云うことはあり得ないものな。
富田 山へ行っても三陸を歩いても何かしら政治の矛盾を感ずるのが当然ではないか。しかしそれが出て来ないんだ。
浪岡 出したいものですね。

◆YH運動と政治的関心について

司会 時間もありませんのでYH運動について話して戴きたいと思います。先程、政治的関心云々と云うことが出て居ります。この辺から話を初めてもらいましょうか。特に政的関心をはぐくむことがないと云うような声もありますが………。
藤村 うちのグループさ。ほら通ずるところがあると思うんだよ。政治的無関心とね。それからぼちぼち突いてさ………。(笑い。)YH運動は世界平和というところにあると思うんだけど、実際はあまり行なわれてないのではないかと思うんですが。
司会 二年生の諸君の口数が少いようだが。
加藤 まずその政治色が強くなるかどうかは問題だね。政治色は必ずしも必要ではないと思う。それよりも今のホステラーが津軽海峡で会員証を投げるというがそっちの方が先ではないですか。
司会 それは本質的な問題ではなく、運動が浸透していればそれはありえないことで普及のテクニックの問題ではないですか。
佐藤 しかしそれは問題であると思う。本来的なユースホステルというものは会員が建てるべきものであるが、それが今は他人によって建てられている。もしホステラーがユースホステルを建てるということになったら、海へ会員証をすてるばかはいないだろう。現在はただ利用するにすぎず働きかけというものがないし、働きかける手段も考えられていない。現在の協会は会員数にのみ頭をうばわれている。これを悪いとはいわない。現在の世の中で何をするにもまず人数であるということは認める。しかしこれをのぼりつめた時どうなるかが問題だと思う。そこにおいて会員が積極的にユースホステル運動といわゆるホステラーの組織化ということが問題になるとおれは思う。またしかし大きな組織になれば何かに――政治的に――利用される危険はあるかもしれないと思うo
富田 この運動は政治、宗教思想を別にした世界平和達成の一つの運動なのだから当然政治色は抜くべきさ。ホステル内の討論はかまわないが政治色がなくていやだというなら止せばいい。
佐藤 この世の中で政治色がないということはあり得ないだろう。資本主義、共産主義というがそれは一つの形態であり政治色がないというのは詭弁をろうせば一つの政治ではないかな。
司会 政治ということをそれでは明確にしましょう。そこで富田さんにお聞きしたいが、今の世の中で世界を二分している大きな資本、共産主義というものを頭に入れず平和運動というものは可能とお考えでしょうか。
富田 俺も考えているが、もし不可能とすればYH運動に参加していたってしょうがない。
藤村 あのネ、YH運動っていうのを皆考え違いしているんじゃないかと思うんだがネ。YH運動は〃話の塔〃であってなにもするところじゃないんですよ。だから思想がどうの、主義がどうのというのは問題じゃないと思うんですけどね。YHは東西から人が集ってくる処で赤旗と日の丸とは関係ないと思うんですがね。
司会 それは先の座談会で出たと思います。つまりYHは赤旗をふる人と日の丸をふる人が、互いに相手の気持を理解する処であると、しかしそれに留まるべきか否かと云うのが問題になると思います。
小笠原 YH運動というのは元来青少年の育成を目ざす運動であるから、主義思想に傾くと健全ではあり得なくなる。主義思想の撰択する能力を育成するのが目的ではないのですか。だったら主義が入ってはいけないと思います。
小田島 YH運動とは主義主張の以前で底辺の問題で下から平和を求める力を養う、そういうものに政治がどうのこうのというのはおかしいと思う。だからなにか、ピントが合わないように感じます。
小林 そうだそうだ、もっと基礎的な……。
浪岡 もっと素朴な平和……。
小田島 何故平和が大切かということを育てる場であると思う。
浪岡 しかし主義をも理解するということもつけ加えねばならないでしょう。
小田島 理解するということは先ずYHとは関係のないものと見ていいと思うな。
浪岡 しかしそれをしなければ、社会のシステムが判らず、それがないと云うことは運動ではあり得ないと思いますね。
小田島 それは個人の問題だと思うんだよ。平和意識の向上がもとだと思う。
小笠原 旅をすれば色々なものが出来るから、その社会を見る目というのは出来ていくのじゃないかと思うんだけど……。
司会 じゃ次に、現在のYHは政治に利用されていないかどうかについて話してもらいましょう。
小田島 なる程、今の日本のYHは政府が建てたり岸さんが顔をだしたりしているが、別にそれが問題ではなく、YHのあり方が問題だと思う。
(ここで記載不能の議論があり、共産主義におけるYHについて二十数名の参加者が泡をとばしました。)
司会 YH運動というものは主義主張以前のべ-シック運動といえない運動である。われわれは平和愛好家であって平和主義者じゃないということで反論はございませんか。
高橋 不可能だろう。(しつこいぞー)
高橋 理想的には可能かもしれないけれど……。
小田嶋 現実に生活しているそれは無理だろう。政治に無関心ということではない。個人個人はどんな考えをもっていてもいいけれど、運動自体はもっちゃいけないと思う。
佐藤 社会主義と資本主義に住んでいる人物の考え方が違うんだ。平和という概念にも大きな違いがあるし、その達成の過程、つまりアプローチにも違いがある。だからそんな中で平和をのぞむというのは確かにちょっと無理のような感じもするんだがね。平和共存は?
佐藤 YHというのはあまりカッコがよすぎるんだ。だからもう少し自分のやっていることに謙虚に打算的になるべきなんだ。おれとお前が話し合って、〃はい!世界平和です。〃とはならないもんな。(笑い)
小田島 しかし〃おれとお前〃が話し合わなけりゃ世界平和にはならないんだからな。
富田 しかしYH運動というのはそんな立派なもんじゃないと思うんだ。言葉が通じなかったり話し合いにもなんにもならないから結局アルファベットの練習をしているんだ。
(またここに記載不能の議論、ガヤガヤ……。)
小田島 人間交流ということが必須のことじゃないですか、上からの平和と下からの平和があり得ると思う。
小林 しかしその理想的にもり上がった状態を期待しているんじゃないかな。
浪岡 平和に近づこうとしている運動だからね。
(そうだ、そうだ。)(夜もふけましたので一応、一同同意の形で散会いたしました。)

おわり

――司会者後記――
 いやはや賑やかなものであった。御判りの通り甚だ記載不能の処が多い。かかる処こそ皆さんに御覧に入れたかったと思う。これ皆司会者の不徳の致す処、唯時間のみすぎ、安宿、観光旅館としてのYH、予約の問題、マナーの問題etc、山積する問題点をかかえながら、司会はハラハラするばかりであった。云いたい時云えぬというのもつらいものであるというのが、いつわざる感想である。編集の都合上、発言を相当数削除致しました。発言者の方々に深く御詫び申します。編集に当っては部外の方々からも御援助戴きました。感謝致します。

(この項、文責、山村、高橋、細川)
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